妥協

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交渉において双方が合意に至る姿勢を見せない膠着状態に陥った場合、妥協を検討すべきタイミングかもしれません。妥協の目的は、一方が相手の要求に一方的に屈することではなく、合意形成を可能にする公平な譲歩案を見出すことにあります。

多くの場合、交渉には期限が伴います。四半期の末日までに商談をまとめる必要があったり、翌日の出勤のために車を購入しなければならなかったり、住む場所を確保するためにアパートを契約しなければならないといった状況です。本来求めていた条件の一部を諦めなければ妥当な期間内に合意へ達することができない状況に直面した場合、契約を成立させるために必要な手段を講じる決断が求められることもあります。

例えば、提示価格からさらに2%値引きしなければ契約書にサインしないと顧客が拒否しており、しかもその日が営業四半期の最終日である場合、商談を成立させるために単にその2%の譲歩を受け入れる価値はあるかもしれません。しかし、取引の公平性を保つため、常に見返りとして何かを得るよう試みるべきです。なぜなら、2%の値引きを提供した以上、相手からも見返りがあるのが筋だからです。例えば、「2%のお値引きは可能ですが、提供するカスタマーサポートの範囲に上限を設けさせていただくことになります。こちらでいかがでしょうか?」と提案することができます。もし顧客がその妥協案を拒否した場合は、「分かりました。2%引きでお受けしますが、その代わり導入設置はお客様ご自身でご対応いただく形となります。これで合意いただけますでしょうか?」と切り返すこともできるでしょう。

交渉における妥協の目的は、双方が不当に搾取されたと感じることなく、当初の希望より少ない条件であっても得られた結果に双方が納得できるよう、公平な価値の交換を見出すことです。もし公平な譲歩の交換が困難な場合は、時間を節約して迅速に取引を完了させるためだけに、求めていた条件を諦める必要が生じることもあります。戦略的な観点から見ると、これは「貨幣の時間価値(Time Value of Money)」と「顧客生涯価値(Customer Lifetime Value)」という2つの重要なビジネス原則を考慮した際、極めて合理的な判断となり得ます。

貨幣の時間価値(Time Value of Money:TVM)とは、現在手元にある資金の価値は将来受け取る同一額面の資金よりも価値が高いという財務概念です。例えば、今日手に入る1,000ドルは、1年後に手に入る1,000ドルよりも価値があります。今後12カ月の間にその資金を投資に回したり、今必要な商品やサービスの購入に充てたりすることができるからです。

交渉において妥協を検討する際、貨幣の時間価値を考慮する必要があります。後になってより大きな成果を得られる「かもしれない」可能性を待つよりも、現時点で希望よりも少ない条件を確実に獲得する方が得策な場合があるからです。この概念は、「手の中の1羽は茂みの2羽に勝る(明日の百より今日の五十)」という諺にも表れており、将来より良いものが手に入ることを期待して待つよりも、今ある機会を確実に掴む方が賢明である状況を指しています。

顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:CLV)とは、1人の顧客が長期にわたって自社にもたらすことが期待される総支出額を表す指標です。例えば、自社との取引を好意的に捉えている顧客がいるとします。初回の購入額は100ドルかもしれませんが、翌年は200ドル、その次の年は300ドルに増える可能性があります。この顧客が毎年約100ドルずつ支出を増やしていくと仮定すると、1年目の終了時点の売上はわずか100ドルですが、2年目終了時点では累計300ドル、3年目終了時点では累計600ドルになります。これを10年間で試算すると、この顧客の10年間の顧客生涯価値は5,500ドルになると算出できます。

ここで、初年度に100ドルを得る代わりに、100ドルの価値しかないと分かっているものに対して500ドルを支払わせるような、顧客にとって極めて不利な条件で合意を取り付けたと想像してみてください。当初の価格より400ドル多く獲得できたかもしれませんが、そのような対応をされた顧客は、以後の取引を他社へと移してしまう可能性が極めて高くなります。その結果、本来であればその後の10年間で得られたはずの5,500ドルの代わりに、その500ドルきりですべてが終わってしまうことになります。

したがって、妥協を検討する際には、いま目前の資金を得る価値だけでなく、将来的にどれだけの利益をもたらし得るかについても考える必要があります。戦略的観点からは、これは「戦術で負けて戦略で勝つ(一戦を落としても戦争に勝つ)」という考え方と捉えることができます。迅速に契約を結ぶために今日譲歩を迫られたとすれば、それは一戦を落としたように思えるかもしれません。しかし、今日その資金を確保することが極めて重要であり、かつその顧客が将来より大きな価値を生み出すのであれば、短期的に妥協することは長期的に見て最善の一手となり得るのです。

あなたが自動車の整備士で、ある顧客のエンジンを修理し終えたところだと想像してみてください。部品代と工賃の合計は750ドルです。請求の段階になって、顧客は車を持ち込んだ際にエンジンが地面を引きずっていたにもかかわらず「実際にはエンジンを直す必要はなかった」と主張し、500ドル以上はびた一文払わないと頑なに拒否します。妥当な妥協点を見出そうと最善の交渉を尽くしたにもかかわらず、相手が500ドルから一切譲らない場合、貨幣の時間価値を考慮するかもしれません。残りの250ドルのために相手を提訴して争うよりも、今すぐ500ドルを手にする方が得策だからです。しかし同時に、その顧客の生涯価値も考慮し、次のように伝えることもできるでしょう。「分かりました、なかなかの交渉上手ですね。こうしましょう。今回は500ドルで結構です。その代わり、次回修理が必要になった際は、お車の状態を把握している当店にぜひまたお持ちください。また、車の修理を必要としているご友人がいらっしゃいましたら、ぜひ当店をご紹介いただけますか。」

もちろん、その顧客が将来再び来店した場合、満額支払ってくれると安易に信用するような真似はせず、実費よりもかなり高めの見積もりを提示するか、事前に代金を確保するなどの対策を講じるはずです。しかし、真の勝利は別のところにあります。その顧客が友人に「ある哀れな整備士を手玉に取ってやった」と自慢し、「車を直すなら絶対にそこへ行くべきだ」と吹聴してくれることにあるかもしれません。結局のところ、250ドルをめぐる一戦には敗れたものの、新規顧客からの新たな仕事の流入によって、その妥協が結果として戦争に勝利することへと繋がるのです。

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