冷静さ

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対立に巻き込まれた際、事態を沈静化(ディエスカレート)するための最初のステップは、冷静さを取り戻すことである。一度心を落ち着かせれば、状況の沈静化は自ずと始まる。争いを始め、それを維持するには、必ず2人以上の人間が必要だからだ。

冷静さを維持する、あるいは取り戻す術を学ぶ上で最も困難な課題の一つは、自分が感情的な引き金(トリガー)を引かれ、もはや明晰に思考できていない状態にあると自覚することである。

誰かの発言などをきっかけに感情を刺激されると、体内ではアドレナリンが急増し、発汗、心拍数の急上昇、呼吸の頻拍化が引き起こされる。また、アドレナリンの急増は、自己制御、計画立案、問題解決を司る脳部位である前頭前皮質の活動を低下させる作用も持つ。ポーカープレイヤーはこの現象を「ティルト(On tilt)」と呼び、感情的な動揺のあまり非合理なプレイに陥っている状態を指して用いる。

これが問題を引き起こす。誰かの発言に刺激されると明晰な思考が停止し、その結果、自分が感情的になっているという自覚そのものが薄れてしまうからだ。引き金となった対象に反撃すれば、相手もまた刺激されて反撃し、それがさらなる感情の高ぶりを生む。こうして対立は制御不能なまでにエスカレートし、論理的思考が失われ、長期的な結末を顧みず手段を選ばず勝つことだけに固執する全面衝突へと発展するのである。

自分が感情的になっていることを察知するには、ニュートラルな感情状態、すなわち「感情のベースライン」を認識していなければならない。このプロセスはマインドフルネスと呼ばれることが多く、通常は瞑想と結び付けられるが、ストレスを全く感じていないときの平常時の状態を単に把握することだと考えてよい。例えば、通常の呼吸の速さ、平時の思考の明晰さ、平常時の心拍数などである。これら通常の基準から外れたときこそ、感情の引き金が引かれた明確な兆候である。

例えば、会議でチームに向けて自分の成果物のデモを終えたところだとしよう。感情の状態に意識を向けると、自分は冷静で、思考は明晰、呼吸は正常で、心拍もほとんど気にならない状態にある。そこである同僚がこう発言したとする。「これに多くの時間を費やしていないことを祈るよ。ゴミ同然で使い物にならない。削除して最初からやり直したほうがいいし、この仕事に本気で取り組む気があるのか考え直すべきだな」。この瞬間、冷や汗をかき始め、耳元で心臓が激しく鼓動し、呼吸が荒くなり、明晰な思考を失って、いわゆる「怒りで目の前が真っ赤になる(Seeing red)」状態に陥っていることに気づく。大半の人間と同様、ここで生じるのは「フリーズ・フライト・ファイト(凍結・逃走・闘争)」反応である。ショックのあまり言葉を失ってその場で立ちすくむ(凍結)か、会議を早急に切り上げて逃げ出そうとする(逃走)か、あるいは反撃に出ようとする(闘争)。プロフェッショナルな職場において、茫然自失となって固まることも、逃げ出すことも許容される行動ではないため、多くの人は感情を刺激されたこと自体に気づかぬまま、本能的に反撃(闘争)してしまう。

冷静で思考が明晰なベースラインの感情状態に戻れなければ、原始的な本能に支配され、次のように言い返してしまう可能性が高い。「誰に向かって口を利いているのか知らないが、あなたに私の仕事を評価される筋合いはない。私を指差して批判する前に、自分が生み出しているゴミクズをよく見つめ直したらどうだ!」

このように発言することは、いわゆる「キャリアを狭める過ち(Career-limiting mistake)」となる。感情的に刺激された状態のまま反応を許してしまっただけで、自身の評判、ひいては社内でのキャリアアップの機会に恒久的な打撃を与える発言をしてしまったからである。

しかし、自分が感情的になっていることに気づくだけの冷静な観察力(マインドフルネス)があれば、最初のステップとして自らを落ち着かせるべきである。それには主に深呼吸を用いる。やり方はシンプルで、鼻から深く息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出すだけでよい。これを数回繰り返せば、冷静さを取り戻し始められるはずである。

深呼吸には、同僚の攻撃に対して即座に言い返さないという効果もある。これにより、周囲の人間があなたを擁護するために割って入る余地が生まれるだけでなく、自身が返答を考えるための時間も確保できる。多くの場合、対立のペースを意図的に落とすだけで、何が起きたのか、どう対応すべきかを当事者全員が考える猶予が生まれ、状況の沈静化につながる。時には、無言が生み出す気まずさそのものによって、攻撃的な同僚が自らの発言の影響の大きさを自覚し、謝罪を引き出せることすらある。

呼吸を整えコントロールすることには、周囲があなたのボディーランゲージをミラーリングし始めるという、極めて興味深い副次効果もある。ミラーリングとは、観察している相手の身振りや身体の動きを無意識に真似る現象であり、誰かが深呼吸をしているのを見ると、自分自身も知らぬ間に深呼吸をしていることがある。このミラーリング効果は、低くゆっくりとした穏やかなトーンで話すことでさらに高めることができる。これら一連の行動が合わさることで、周囲が無意識にあなたの振る舞いを模倣し、結果として相手をも落ち着かせる効果を生むのである。

同僚への対応に戻ろう。数回ゆっくりと深呼吸をする間に生じた気まずい沈黙のあと、ゆっくりと穏やかに「そのように感じていたとは気づきませんでした」と発言し、そのタイミングで静かに着席するとよいだろう。ボディーランゲージによる沈静化効果を最大化するためには、両手を相手からよく見える位置に置き(手のひらを相手に向けるとなおよい)、視線を少し下げてアイコンタクトを外すのも効果的である。

これを適切に実践できれば、自分は冷静さを取り戻し、室内の空気は落ち着き、攻撃してきた同僚は自らの愚かさを痛感して強い恥じらいを覚えるはずである。迅速に冷静さを取り戻して事態を沈静化させることで、周囲はあなたを成熟したプロフェッショナルと見なし、相手を無礼で軽率、未熟で非プロフェッショナルであると見なすだろう。その後の事態をどう処理するかは別の問題だが、少なくとも衝突は回避され、制御不能なスパイラルに陥る前に対立を沈静化させることができる。

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